どうして由良の魚は美味しいのか?魚種も多様で新鮮な海の幸が獲れる理由を和歌山県 日高振興局農林水産振興部の島村さんにお話しを伺いました。

Q.由良の特徴は水揚げされる魚種が豊富だと思うのですが、地理的条件が揃っているということなんでしょうか?
まず魚が育つには、大きな魚にとっては餌となる小さな魚が、小さな魚にはプランクトンが必要です。プランクトンは「浮遊生物」という意味で、海中や淡水中などを漂って生活する生物の総称です。それが魚類や鯨などの餌となり食物連鎖の土台となっているわけです。このプランクトンの餌自体は窒素やリンなどの栄養塩だと言われています。その栄養塩の多くは雨などが川となって流れてくることで海に供給されて、栄養塩の豊富な海域でプランクトンが大量に発生し、そのプランクトンを求めて魚も集まってくるので、漁師さんたちが良い漁をする事が出来ます。

日本列島の全体の海を見てみると、大陸棚という水深が200mまでの比較的浅い海で、温かい海水の暖流と冷たい海水の寒流がぶつかることで世界的にも多くの魚が獲れる海があります。そうした中で由良町が面している紀伊水道に目を向けると、陸から流れてくる水の影響を強く受けた冷たくて栄養塩の豊富な瀬戸内海の海水と、黒潮に乗って回遊する魚が生息する塩分濃度が高めの温かい海水が混ざる場所になるので、プランクトンや海藻が育ちやすい環境にあります。つまり、プランクトンが多くて温かい海水を好む魚と冷たい海水を好む魚の両方が集まり育つ場所が好漁場になりやすいんです。また由良町ではワカメの養殖やアカモク採取など海藻も豊富で、それらを加工した商品も販売されていますよね。ワカメなどの海藻を養殖でき、またアカモクなどが生い茂る由良の海は海水中の栄養塩が豊富にある豊かな海で、そこに育つ由良の魚も美味しい証拠ではないでしょうか。

Q.由良の海はみかんを栽培している山との距離が近いですが、何か関係ありますか?

一般的に、山にある木々の落ち葉などは微生物によって分解されて腐葉土がつくられ、そこに雨水等が浸透して栄養塩を含んだ水が川から海へと流れ込み、海が豊かになります。みかん畑を含む由良町の山々は過剰に開発されることもなく貴重な自然が残されていることで、豊かな海づくりに貢献していると思います。その他に漁業と農業の仕事のあり方が大きく関係しているのではないでしょうか。由良町には漁業に適した海のほかに、温暖な気候と潮風が吹く南向きの斜面は、みかん作りに適しており、古くから農業も盛んに行われ、特に海沿いの集落には半農半漁で生活する方々が多数おられます。これが漁村集落の背後にみかん畑が見られる景色を作っているのです。みかんの花が咲く5月頃になると、その香りは沖で操業している漁業者にも届くとも言われています。

Q.由良の漁師さんたちは自分たちで一般生活者にPRする活動もされていますよね?

由良町の一部の漁師さんのたちは水揚げした水産物を市場に出荷するだけでなく、自分達でその良さをPRすることにも熱心です。漁師自らが和歌山県のアンテナショップの店先にも立つし、飲食店などへの営業もしています。また近年は都市農山漁村の交流事業にも積極的に参加してくれています。「地元・由良町のファンをつくる事は、由良の魚のファンづくりにもなるんだ」といった気概を感じますね。

最後にメッセージをお願いします。

外国での魚の消費傾向を見ると、アジア、オセアニア地域では経済発展に伴って一人当たりの魚の消費量が増加しているようです。一方、国内を見ると「魚離れ」と言われて久しく、消費量が年々減少傾向にあります。しかも消費者の生活様式や志向の変化からサーモンやツナ(マグロ)といったゴミが少なく調理が手軽なものが好まれ、これらは輸入品が多く、由良町で獲れる水産物ではありません。もっと国内で水揚げされた水産物を購入し国内で消費しないと漁師さんたちの収入に繋がらず、後継者も出来ないまま漁師を辞めてしまう人も出て、このままでは漁業者がいなくならないか心配です。

そこで県庁では、『骨のある魚』を食べる機会が減っている子どもたちに、魚の食べ方とおいしさを知ってもらおうと県内の小学校に出向き、学校給食で魚料理の提供と魚の食べ方レクチャーをセットにした出前講座をしています。そして、これをきっかけに地元で水揚げされた魚を食べる家庭が増えてほしいと思っています。魚には種類によって脂の乗りの良い旬があります。スーパーや魚屋さんなどの売り場にある表記や店員さんに尋ねるなどして、国内の、できれば地元の海で獲れた魚を多く食べてもらいたいたいです。

お話を伺った方
和歌山県日高振興局 農林水産振興部 農業水産振興課 主任 島村 泰司さん